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財務省「薬学部の大胆な定員削減を」──2026年4月23日 財政審提言の全貌と、薬学生・薬剤師・受験生が今知っておくべきこと

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はじめに

2026年4月23日、財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会で、薬学部について「大胆な定員削減に踏み切るべき」との提言が示されました。同日の議題「人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)」のなかで、医学部・歯学部とともに薬学部の定員過剰が指摘され、各種メディアが相次いで報じています。

今回は、薬剤師国家試験予備校として、薬学生・国試浪人生・現役薬剤師、そして薬学部を志望する受験生とその保護者の皆様に、この提言を一次資料に基づいて正確に事実をお伝えしたいと考えます。

本記事では、財務省資料の原文を引用しながら、何が提言され、その背景にどのようなデータがあり、そして読者である皆様一人ひとりにとって何を意味するのかを整理します。


第1章:財務省は何を提言したのか──原文で読む

財務省が2026年4月23日の財政制度分科会に提出した資料1「人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)」のp.37「医学部・歯学部・薬学部の定員数の削減」では、薬学部について次のように記されています。

歯科医師・薬剤師についても、2012年以降、国家試験の合格者数が平均で定員数の8割程度となっており、既に定員数が過剰。そもそも、今後の人口減少や医療提供の効率化を踏まえれば、歯科医師・薬剤師を増加させる必要性は乏しいとも考えられる。

学問分野間の人材配分の適正化の観点からも、大胆な定員削減に踏み切るべき

(財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料1、令和8年4月23日、p.37)

要点を整理すると、財務省は次の3つの論拠で薬学部定員削減を求めています。

第一に、薬剤師国家試験合格者数が、薬学部入学定員の平均約8割にとどまっており、既に定員数が過剰。
第二に、人口減少と医療提供効率化により、薬剤師需要が増える見込みは乏しいこと。
第三に、医療系学部に人材が偏ることが、他分野の人材配分を歪めていること。

ここで重要な留意点があります。
この提言は「政府決定」ではなく、財務大臣の諮問機関である財政制度分科会の問題提起です。
実際の薬学部定員制度を所管するのは文部科学省、薬剤師需給政策を所管するのは厚生労働省であり、両省と財務省の協議を経て今後の方向性が決まります。

ただし、財政審の建議は毎年の予算編成に反映されてきた歴史があり、「単なる意見」として無視できない重みを持つことも事実です。


第2章:データで見る現状──なぜ「過剰」と判断されたのか

財務省の論拠を検証するため、財務省資料そのものに加え、厚生労働省・文部科学省の一次データを照合してみます。

2-1. 合格者数と定員のギャップ

財務省資料p.37の注記によれば、2012〜2026年の薬剤師国家試験合格者数は、6年前の薬学部入学定員に対して平均で80.7%です。

この数字の意味を、読み解きましょう。
「定員に入学した学生のうち、6年後に薬剤師資格を取得した人は約8割」という単純な解釈は、実は誤りを含みます。なぜなら、合格者には既卒者(前年以前に卒業して再受験した人)も含まれているからです。

実際、2026年3月25日に厚生労働省が発表した第111回薬剤師国家試験の結果では、新卒合格率86.25%、既卒合格率41.33%でした。
新卒だけで見れば合格率は8割を大きく超えますが、入学者の中には留年・退学・卒業延期によって6年で卒業できなかった人が一定数います。

文部科学省「薬学部における修学状況等 2025年(令和7年)度調査結果」によれば、私立大学のストレート国家試験合格率(入学者のうち6年で卒業し国試に合格した割合)は56.8%にとどまります。
国立大学は80%、公立大学は75.9%です。
ストレート合格率については、薬学部ストレート合格率とは?大学別一覧と分析【文部科学省2025年度調査データ】に詳しく記載しています。

つまり財務省の「定員の8割が国試合格」という表現の背後には、私立大学では入学者の半数近くが6年で薬剤師になれていないという、より深刻な実態があります。

2-2. 薬剤師数・薬局数・薬学部数の30年

財務省資料p.41からは、次の事実が読み取れます。

薬局に従事する薬剤師数は、1994年の約6.1万人から2024年の約19.7万人へと約3倍に増加し、薬局数も同期間で約63%増加しています(資料p.41)。

薬学部については、2006年の6年制移行以降に新設ラッシュが起こりました。
日本私立薬科大学協会の調査によれば、2025年度時点で同協会加盟は61校、6年制と4年制を合わせた入学定員は11,076人です。

2-3. 定員割れと淘汰の動き

ダイヤモンド編集部の調査(2025年8月7日公開)によれば、私立60薬学部(6年制)のうち、2024年度入学者で定員割れしたのは31学部、このうち10学部は入学定員充足率50%未満という整理がされています。

2025年度以降、薬学部の募集停止・定員削減の動きが本格化しています。

【募集停止】
・姫路獨協大学:2025年度から薬学部医療薬学科の学生募集停止(全国初)
・医療創生大学:2026年度から薬学部薬学科の新入生募集停止(2例目)
・城西国際大学:2027年度から薬学部医療薬学科の学生募集停止(2026年3月発表、3例目)

【定員削減(2026年度実施・認可済み)】
・東北医科薬科大学:定員20人減(300人→280人)
・城西大学(埼玉県坂戸市):定員50人減(250人→200人)
・徳島文理大学:定員60人減(150人→90人)
※法令根拠:学校教育法施行令第23条の2第1項第4号(薬剤師養成抑制基準)

【定員削減(2026年度実施・2025年7月18日諮問、追加3校)】
・城西国際大学:定員50人減(110人→60人)※その後2027年度募集停止へ
・湘南医療大学:定員30人減(130人→100人)
・就実大学:定員30人減(100人→70人)

【定員削減(2027年度実施予定)】
・新潟薬科大学:定員30人減(130人→100人)※2027年4月「新潟科学大学」に名称変更と同時実施

2-4. 厚生労働省の需給推計

厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」第8回(令和3年4月26日)で公表され、同年6月30日のとりまとめに反映された薬剤師需給推計(推計期間:2020年〜2045年)によれば、2045年時点で供給は43.2〜45.8万人と推計される一方、需要は33.2〜40.8万人とされており、需要・供給の各シナリオの組み合わせにより、約2.4万人〜約12.6万人の供給過剰が見込まれる結果となっています。

この推計が、2023年の文部科学省告示による定員抑制方針、そして今回の財務省提言の基礎データとなっています。


第3章:なぜ今、医学部・歯学部とセットで議論されるのか

財務省が薬学部単独ではなく、医学部・歯学部を含めて「医療系学部の定員適正化」として議論している点には、構造的な理由があります。

財務省資料p.36には、次のデータが示されています。

2025年における大学1年次在籍学生では、理工系(理学・工学・農学・保健・教養課程(理系))の学科に在籍する学生の約36%が保健系(医学・歯学・薬学・看護学等)の学科に在籍。更に、女性では理工系のうち約60%が保健系の学科に在籍。

(財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料1、令和8年4月23日、p.36)

財務省はこの数字を踏まえ、「人口減少が続く中で、特定の業種・分野に人材が偏ることは、他分野への専門人材の供給に影響を及ぼしていることが懸念される」と指摘しています(資料p.36)。

さらに資料p.38では、医師・歯科医師・薬剤師以外の医療関係職種について、「業際規制の見直し」「医療専門資格の統合も視野に入れるべき」とまで踏み込んだ表現が用いられています。

これは医療関係職種の専門性を否定するものではなく、「希少な人材を最大限活用するため、職種間の役割分担と協働を再設計すべき」という文脈です。
実際、2026年度診療報酬改定では、急性期病棟における看護職員と他の医療職種(リハビリ職・管理栄養士・臨床検査技師)の協働を評価する「看護・多職種協働加算」が新設されるなど、職種間の役割分担と協働を制度的に推進する流れが強まっています。

医療提供体制全体の効率化という大きな潮流のなかに、薬学部定員削減が位置づけられている──これが財務省提言の本質です。


第4章:受験生・保護者にとっての含意

ここからは、読者層別に「この提言が何を意味するか」を具体的に整理します。

まず、薬学部を志望される受験生とそのご家族にとって、最も重要なのは「6年後に確実に薬剤師資格を取れる大学を選ぶ」視点です。

定員削減の動きが本格化するなか、すでに学生募集を停止した大学、定員を縮小している大学が複数あります。今後さらにこの動きは続くと見るのが現実的です。重要なのは、入学した大学が経営的に存続し、教育の質を維持し、ストレートで国家試験に合格させてくれるかという観点です。

具体的に確認すべき指標は次の4つです。

第一に、入学定員充足率
50%を割り込んでいる大学は文部科学省の指導対象となり、教育環境の悪化や募集停止のリスクがあります。

第二に、ストレート卒業率と新卒国家試験合格率
文部科学省「薬学部における修学状況等」で公表されており、私立大学のストレート国試合格率は平均56.8%(2025年度調査)です。
この数字を大きく下回る大学は、6年での薬剤師資格取得が難しい可能性があります。

第三に、経営の健全性
私立大学の財務情報は文部科学省や日本私立学校振興・共済事業団のサイトで一定程度公開されています。

第四に、所在地と立地
東京理科大学が2025年に薬学部を野田キャンパスから葛飾キャンパスに移転して志願者を757人増やした例(私立薬大協調査、2025年)が示すように、立地は受験動向と長期的な大学経営に直結します。

薬学部に入れば誰でも薬剤師になれる時代」は、もう終わっています。


第5章:薬学生・国試浪人生にとっての含意

現役薬学生、そして国試浪人中の方にとって、財務省の提言が意味するものは明確です。

「現役で確実に合格すること」の社会的価値が、これまで以上に高まるということです。

第111回薬剤師国家試験(2026年)の結果は、新卒86.25%・既卒41.33%という、過去11年で新卒最高値を記録しました。
一方で既卒は直近5年で2番目に低い水準です(厚生労働省、2026年3月25日発表)。

この差は単なる学力差ではなく、学習環境・学習方法・モチベーション維持の構造的な差です。
新卒は大学のカリキュラムと友人とともに学び、既卒は孤独な戦いを強いられる──この構造が、合格率の倍以上の差を生んでいます。

財務省提言が現実化し薬学部定員が削減されれば、長期的には国家試験合格者数も絞られていく可能性があります。
だからこそ、今、目の前の試験で確実に合格することが、過去のどの世代よりも重要になっています。

国試浪人中の方への具体的アドバイスは、メディセレメディアの過去記事「【第111回薬剤師国家試験】合格発表 全データ分析」でも触れていますが、要点は一つです。

「もう1年同じやり方を繰り返す」のではなく、学習方法と環境そのものを変える決断をすること
これが既卒41%の壁を超える唯一の方法です。


第6章:現役薬剤師・薬局経営者にとっての含意

財務省の提言は、薬学部だけでなく薬局のあり方にも踏み込んでいます。

財務省資料p.41には、次の指摘があります。

過去30年間で、薬局数は6割以上増加し、薬局に従事する薬剤師の数は3倍以上となっている。また、薬局は、小規模な形態が大宗を占めている。提供体制の効率化がなされないまま、人材の流入が継続してきたことが見て取れる。

こうした小規模分散の体制は、対人業務の充実安定的な医薬品供給の観点から問題。限りある医療人材の最適配分を実現し、効率的な医療提供体制を構築する観点から、薬局の集約化大規模化に向けた取組が不可避。

(財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料1、令和8年4月23日、p.41)

具体的なデータとしては、常勤薬剤師2人以下の薬局が約2/3月処方箋受付回数1,000回未満の薬局が5割超を占めるとされています(資料p.41)。

中央社会保険医療協議会「調剤について(その2)」(2025年11月28日)でも、小規模薬局乱立が以下の問題を生んでいると指摘されています。
地域医療提供体制の非効率化医薬品流通への負荷過剰な流通在庫薬歴一元化の困難かかりつけ薬剤師機能の脆弱化──。

薬局経営者にとって、財務省・厚労省・中医協の方向性は一致しています。
集約化・大規模化が「不可避」と明言されている以上、今後の調剤報酬改定や規制見直しは、この方向に沿って進むと予測されます。

加えて、財務省が「看護・多職種協働加算」(2026年度診療報酬改定で新設)を医療系全体の効率化と多職種協働を進める象徴として位置づけている点はやはり重要です。この加算では薬剤師は含まれていませんが、同じ方向性は薬剤師の世界でも具体化しています。

2026年度調剤報酬改定(令和8年6月1日施行)では、2016年度創設のかかりつけ薬剤師指導料、およびかかりつけ薬剤師包括管理料が廃止され、服薬管理指導料に統合されました。
厚生労働省はこれを「かかりつけ薬剤師の包括的評価から実績重視の評価への転換」と整理しています(出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」、調剤報酬点数表令和8年6月1日施行)。

病棟においても薬局においても、「質が確保された希少な医療専門職を最大限に活かす」という観点に立った、職種間のタスクシフト・シェアと多職種連携強化という同一の潮流(資料p.38)が制度として動き出しています。

薬剤師の職域は、対物業務から対人業務へ、そして多職種連携へとシフトしていることを、現場の薬剤師の皆様は肌で感じておられるのではないでしょうか。


第7章:これは「決定」ではない──冷静に受け止めるために

ここまで財務省提言の中身と各読者層への含意を述べてきましたが、最後に冷静に整理しておくべき点があります。

今回の提言は政府決定でも法令改正でもなく、財政審が示した問題提起です
実際の薬学部定員制度を変更するには、文部科学省の判断と、場合によっては学校教育法施行令の改正が必要です。

ただし、関連する政策はすでに動いています。
文部科学省は2023年9月1日告示により、2025年度以降の薬学部新設・定員増を原則認可しない方針を決定済みです(学校教育法施行令第23条の2第1項第4号に基づく告示)。
今回の財務省提言は、この既存の方針を「次の段階」に進めることを促すものと位置づけられます。

つまり、「定員削減の方向性は数年前から動いており、今回の提言はその加速を求めるもの」という理解が正確です。

一方で、財政審の提言通りに即座に大規模な定員削減が行われるとは限りません。
文部科学省・厚生労働省・大学関係者・日本薬剤師会などのステークホルダーとの調整が必要です。
読者の皆様には、報道に過度に動揺せず、しかし方向性としては「薬剤師の希少価値が高まる時代」が来ることを念頭に、それぞれの立場で備えていただければと思います。


おわりに──メディセレからのメッセージ

「薬剤師は増えすぎた」「薬学部は淘汰される」──こうしたニュースを聞くと、薬学を志す方や現役の薬剤師の皆様は不安になるかもしれません。

しかし、別の見方もできます。

財務省の提言が示しているのは、「質の低い薬剤師は不要」ということではなく、人口減少時代に、希少な人材として薬剤師の価値を最大化すべきということです。
在宅医療、対人業務、専門薬剤師、多職種連携──これらの分野で活躍できる質の高い薬剤師への需要は、今後も確実に存在し続けます。

「淘汰の時代」だからこそ、確実に薬剤師資格を取り、現場で求められるスキルを磨き続ける薬剤師の社会的価値は、これまで以上に高まります。

メディセレは、薬学生・国試浪人生・現役薬剤師の皆様一人ひとりが、この構造変化のなかで自らのキャリアを切り開けるよう、薬剤師国家試験合格と継続的なスキルアップを全力で支援してまいります。


参考資料

  1. 財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料1「人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)」令和8年(2026年)4月23日
  2. 厚生労働省「第111回薬剤師国家試験の結果について」令和8年3月25日
  3. 厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」第8回資料(令和3年4月26日)および同検討会とりまとめ(令和3年6月)
  4. 文部科学省「大学、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準第一条第六項の文部科学大臣が定める基準」(令和5年9月1日告示)
  5. 文部科学省「薬学部における修学状況等 2025年度調査結果」
  6. 中央社会保険医療協議会「調剤について(その2)」令和7年11月28日
  7. 文部科学省「令和8年度からの私立大学等の収容定員の変更に係る学則変更認可申請一覧」令和7年4月9日
  8. 日本私立薬科大学協会「2025年度 私立薬科大学(薬学部)入学志願者数等調査」令和7年8月

この記事の著者

田原 靖弘

【株式会社Medisere取締役】
【特定行政書士】

18年間警察官として勤務し、府下最年少の知能犯係長、捜査第二課係長として詐欺、横領、背任、偽造、不正受給といった経済事犯の捜査指揮を行う。
告訴・告発事件捜査において、警察庁表彰の実績も持つ。

現在は、株式会社Medisere取締役と行政書士事務所代表を兼務。

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