「異常行動の原因」から「予防の手段」へ:オセルタミビルによる神経精神事象リスク低減
最新のコホート研究により、小児および青少年におけるオセルタミビル(タミフル)の使用は、インフルエンザに伴う重篤な神経精神事象のリスクを約50%減少させることが示されました。かつて懸念された「薬剤による異常行動」は、科学的根拠に基づいたものではなく、事象の真の原因はインフルエンザ感染そのものにあることが示唆されています。薬剤師は、本剤が合併症を予防する有効な手段であることを正しく理解し、患者家族の不安を解消する役割を担う必要があります。
JAMA Neurology Original Investigation
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2837165
1. かつての「異常行動」という誤解とその背景
2006年頃、オセルタミビル服用後の小児における重篤な神経精神事象(いわゆる異常行動)が報告され、公衆衛生上の大きな懸念となりました。これを受けて、米国食品医薬品局(FDA)などは警告ラベルを変更しましたが、重要な点は、これらの警告がリスク評価研究ではなく、症例報告に基づいて行われたということです。
当時の懸念は、科学的な裏付けに乏しいものでした。オセルタミビルは半減期が短く、血液脳関門でのP-糖タンパク質による排出系が存在するため、中枢神経系への移行性は低いことが知られています。過去のランダム化比較試験のメタ解析においても、オセルタミビル治療と神経精神事象のリスクに関連は見られていませんでした。しかし、この懸念に、一般市民のみではなく、多くの薬剤師も動揺を隠しきれませんでした。
2. 真の原因:インフルエンザ自体に伴う合併症
研究データは、神経精神事象がインフルエンザ感染そのものによって誘発されることを明確に示しています。インフルエンザ感染は、脳炎、痙攣、意識状態の変化など、多様な神経精神症状を引き起こすことが以前から知られています。
今回の調査でも、重篤な神経精神事象のリスクは、インフルエンザに感染していない期間に比べて、インフルエンザ感染期間中に有意に高まることが確認されました。つまり、かつて薬剤の副作用と疑われた症状の多くは、インフルエンザという疾患が持つ病態の一部であったと言えます。
3.最新知見:オセルタミビルがリスクを低減する可能性
本論文の核心は、オセルタミビルがこれらのリスクを増大させるどころか、むしろ抑制する可能性を示したことにあります。約70万人の小児を対象とした大規模な解析の結果、未治療のインフルエンザ期間と比較して、オセルタミビルで治療した期間では、重篤な神経精神事象の発生率が47%減少(aIRR 0.53)しました。
内訳を見ると、このリスク低減効果は特に神経学的事象(痙攣など)の減少によって牽引されています。また、精神医学的事象(自傷行為や気分障害など)についても、オセルタミビルによるリスクの増加は認められませんでした。治療を受けた群では、未治療群に比べて事象の発現が遅く、頻度も低かったことから、薬剤の生物学的な保護作用が示唆されています。
4.薬剤師が伝えるべき、これからの服薬指導
薬剤師は、オセルタミビルの安全性とベネフィットについて、最新のエビデンスに基づいた情報提供を行うべきです。本研究の結果は、オセルタミビルの使用が、インフルエンザに関連する重篤な神経精神合併症の予防に寄与することを支持しています。
服薬指導の際には、以下のポイントを強調することが有効です。
・かつての警告は症例報告ベースのものであり、現在の大規模な科学的調査では否定されていること。
・異常行動のリスクは、薬ではなくインフルエンザという病気そのものに伴うものであること。
・オセルタミビルを適切に服用することで、その重篤な合併症を約半分に減らせる可能性があること。
このように、不必要な不安を取り除き、適切な治療の完遂を促すことが、小児の健康を守る鍵となります。

