「漢方専門」の薬剤師がいる?隣国・韓国の薬剤師事情、日本とこんなに違う5つの驚き | メディセレメディア

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「漢方専門」の薬剤師がいる?隣国・韓国の薬剤師事情、日本とこんなに違う5つの驚き

日本と韓国は、地理的には近い隣国ですが、医療制度、特に「薬剤師」のあり方には驚くほど大きな違いがあります。普段あまり知る機会のない、韓国の薬剤師事情。そこには、私たちの常識を覆すような独自の制度や文化が存在します。

この記事では、韓国における薬剤師の職能を中心に、日本人が特に驚くであろう5つの事実をピックアップし、分かりやすく解説していきます。

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1. 薬剤師とは別に「漢方薬剤師」という国家資格が存在する

最初の驚きは、韓国には薬剤師とは別に「漢方薬剤師」という国家資格が存在することです。

韓国は、西洋医学と漢方医学が明確に区分された「医療二元的体系」を維持しています。この体制のもと、漢方薬の専門家を育成するため、1996年に大学に漢方薬学科が設置され、2000年から「漢方薬剤師」が誕生しました。

法律上、漢方薬剤師は「漢方薬及び漢方薬製剤に関する薬事業務を担当する者」と定義されています。驚くべきは、漢方薬剤師も薬剤師と同様に薬局を開設する権利を持ち、さらに一般用医薬品(西洋薬を含む)の販売も可能であるという点です。ただし、この一般用医薬品の販売権限については、薬剤師との職域をめぐる対立から現在も議論が続いており、制度に内在する緊張感を浮き彫りにしています。漢方薬を薬剤師の職能の一部として統合的に扱う日本とは、根本的に異なる思想がここにあります。

2. 法律上、薬剤師は「医療人」に含まれない

日本では医師や歯科医師、薬剤師などが「医療の担い手」として広く認識されていますが、韓国の法律上の定義は異なります。

韓国の医療法において「医療人」とは、医師、歯科医師、漢方医、看護師、助産師の5職種を指し、薬剤師はここに含まれていません。薬剤師は、より広範なカテゴリである「保健医療人」という枠組みに分類されます。

この背景には、医療法が “人の疾病を診断し、治療すること” を「医療人」の主な役割と規定しているため、薬の調剤・調製を専門とする薬剤師は、その定義に該当しないとされていることがあります。この法的な線引きは、単なる言葉の定義に留まらず、両国が薬剤師の職能をどのように捉えているかの根本的な思想の違いを浮き彫りにしています。

3. 「医薬分業」は例外を除き100%の強制分業である

日本では、処方箋を病院外の薬局で受け取る「医薬分業」が進んでいますが、これは「任意分業」であり、院内処方も存在します。一方、韓国の制度は根本的に異なります。

韓国では2000年7月から「強制分業」が実施されており、分業率は100%に達します。つまり、原則としてすべての外来患者は院外の薬局で薬を受け取ることになります。

もちろん、入院患者の退院時や救急患者、希少疾患など、いくつかの例外事項は設けられています。この徹底した制度は、医薬品の誤用・乱用防止や、患者が自身の薬について知る権利の保障に貢献したと評価されています。この制度を支えるため、処方・調剤時に併用禁忌薬などをリアルタイムで警告する「医薬品安全使用情報システム(DUR)」が全国的に導入されています。これは、単なる支援ツールではなく、人的リソースが限られる中で100%分業という厳格な制度を機能させるための、国策としてのデジタルインフラ投資と言えるでしょう。

4. 「専門薬剤師」が国家資格になったのは2023年

専門性の高い知識と技術を持つ「専門薬剤師」制度。韓国でこの制度が国家資格として認められたのは、ごく最近、2023年のことです。

もともとは、韓国病院薬剤師会が主導する民間資格として2010年に始まりました。その後、十数年にわたる取り組みが実を結び、2020年に薬事法が改正。ついに2023年4月、専門薬剤師制度が法制化され、国家資格へと昇格しました。

興味深いのは、その専門科目の名称決定の経緯です。当初、民間資格では「内分泌薬療」のように「薬療(Pharmaceutical Care)」という言葉が使われていましたが、医師会などから「”薬療”という名称が診療権を侵害する可能性がある」との意見が出され、議論の末に「薬療」の単語が削除されました。これは、医療界における職種間のパワーバランスを如実に示すエピソードです。

国家資格としての専門科目は、病院薬剤師部門で「内分泌」「老人」「小児」など9科目、地域薬剤師部門で「統合薬物管理」1科目が定められています。第1回国家試験は2023年12月に行われ、2024年3月に病院部門で初の国家資格を持つ専門薬剤師が誕生しました。ただし、地域薬剤師部門の「統合薬物管理」は3年間の猶予期間が設けられ、2027年から本格的に始動する予定です。

5. 人口あたりの薬剤師数は日本の半分以下

最後のポイントは、薬剤師の数に関する衝撃的なデータです。

2020年のOECD加盟国のデータによると、人口1,000人あたりの薬剤師数は、日本が2.0人であるのに対し、韓国はわずか0.8人。つまり、韓国の薬剤師数は日本の半分以下ということになります。

この事実と、先に述べた「100%強制分業」を重ね合わせると、韓国の医療システムが抱える構造的な緊張が見えてきます。日本の半分以下の薬剤師で、どのようにして全国民の外来処方を担っているのでしょうか。この背景には、70%以上の薬剤師が地域薬局に集中しているという人員配置と、DURのようなITシステムの徹底活用があります。この少数精鋭の体制は、薬剤師一人ひとりの業務が調剤の正確性と効率性に極度に集中していることを示唆しており、日本の薬剤師が対人業務に時間を割く余地を持つモデルとは対照的と言えるでしょう。

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考察

「漢方薬剤師」の存在、法律上の位置づけ、100%の強制分業、ごく最近始まった専門薬剤師の国家資格化、そして人口比で見た薬剤師数の少なさ。これら5つのポイントから、韓国の薬剤師制度が、日本とは異なる独自の歴史と社会的背景の中で発展してきたことが分かります。

特に2023年は、薬学教育が完全に6年制へ移行し、専門薬剤師が国家資格となった「大きな節目の年」でした。これは、薬剤師の専門性をより高いレベルで標準化し、公的に認めるという国家的な意思表示であり、韓国の薬剤師が新たな専門職の時代へと突入したことを意味します。隣国のダイナミックな変化を知ることは、私たちの現状を振り返る良い機会となります。

この事実を踏まえて、私たちは何を考えるべきでしょうか。日本の薬剤師の役割は、今後どのように進化していくべきでしょうか?

この記事の著者

田原 靖弘

【行政書士】
18年間警察官として勤務し、捜査二課係長として詐欺や横領、補助金不正といった経済犯罪の捜査を専門に担当。告訴・告発事件処理では警察庁表彰の実績も持つ。
現在は、株式会社Medisere取締役と行政書士事務所代表を兼務。
その元刑事としての豊富な経験と独自の視点を活かし、以下の分野で専門的なサービスを提供している。
経営者・起業家向け:法務リスク管理、資金調達と事業成長戦略の支援
薬局・医療関係者向け:業界に精通した実践的アドバイスと行政手続き

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