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音楽は国家試験合格確率を下げてしまう

#循環器#臨床論文#薬剤師

近年、学習中の「ながら音楽」が本当に集中力を高めるのかについて、実証的な検証が進んでいます。そしてこのたび、音楽環境と学習パフォーマンスの関係を比較した研究論文が発表されました。無音、歌詞なし音楽、歌詞付き音楽を条件として分析した結果は、受験生にとって決して軽視できない内容でした。
とくに、言語的処理を伴う課題では音楽が成績に影響を及ぼし、歌詞付き音楽ではその低下がより明確に示されたのです。
「音楽は集中力を高める」という主張は、本当に科学的に支持されているのでしょうか。
本稿では、その研究結果をもとに、薬剤師国家試験に向けた学習環境を改めて考えます。

Should We Turn off the Music? Music with Lyrics Interferes with Cognitive Tasks
Journal of Cognition, 6(1): 24, pp. 1–18. https://journalofcognition.org/articles/10.5334/joc.273

1. 結論:勉強中の音楽は、国家試験合格確率を下げてしまいます

まず結論からお伝えします。
薬剤師国家試験に本気で向き合うなら、勉強中の音楽は基本的に不要です。
そして歌詞付き音楽は、さらに不利になる可能性が高いと考えるべきです。

研究が示しているのは、「音楽を流すと集中力があがり、学習効果が上がる」という科学的な証拠はない、という事実です。むしろパフォーマンスは低下することがしめされました。特に歌詞付き音楽では、その低下がより一貫して確認されています。

影響は劇的ではありません。しかし、劇的ではないからこそ、人間はその悪影響に気づかずに負の影響を重ねてしまうことになります。
そして、薬剤師国家試験への勉強は、長期間にわたります。少しの差も積み重ねることにより大きな差となってしまいます。結果、音楽の影響による得点の差が合否を変えてしまうかもしれません。
平均してマイナスに働く可能性がある環境を、あえて選び続ける理由は慎重に考えるべきです。

気分が整うことと、得点が伸びることは別問題です。
より確実な合格を最優先するなら、まずは「無音での学習」を基準に考える必要があります。

2. 薬剤師国家試験のどこに響くのか

薬剤名や作用機序の理解、構造式が示す物質の性質の理解、長文症例の読解、選択肢の微妙な文言差の見極め、薬物動態の計算。そして、その理解を支える多くの暗記。これらはすべて、人間のワーキングメモリを集中的に使う高負荷の作業です。

音楽が流れていると、たとえ歌詞がなくても、人の脳はリズムや旋律を処理します。脳のリソースはわずかに分散します。そして歌詞がある場合、その影響はさらに強くなります。言語情報は自動的に処理されるため、暗記や読解といった言語的課題と直接競合します。

薬剤師国家試験の学習内容は、まさにこの「競合」が起きやすい領域に集中しています。

つまり、音楽は基本的に余計な負荷を加え、歌詞付き音楽はその負荷をさらに強める、と理解するのが科学的な結論です。

3.研究が示す事実とメカニズム

大学生を対象とした実験では、無音、歌詞なし音楽、歌詞付き音楽の条件で記憶や読解課題を行わせています。

結果は明確でした。
歌詞付き音楽では一貫して成績が低下しました。効果量はおおよそ d ≈ −0.3 と報告されており、小さすぎて無視できる、誤差と考えることができるとは言えない確実な差です。
歌詞なし音楽を聴くことは、無音より学習効率を上げるという証拠は示されていません。明確に有害と断定できるほどではないものの、少なくとも「学習効率を上げる」と言えるデータはありません。

背景にあるのは「無関係音声効果(Irrelevant Speech Effect)」と呼ばれる現象です。人間の脳は意味のある音声刺激を完全には無視できません。課題と無関係であっても、人のワーキングメモリに入り込み、保持や操作を妨げます。

特に言語的処理が中心となる課題では、その影響は避けがたいものになります。
興味深いのは、多くの学生が「音楽があるほうが集中できる気がする」と感じている点です。しかし主観的な集中感と、実際の正答率は一致しません。

心地よさは、必ずしも成果に直結しないのです。
音楽とともに勉強しているとき、集中していると感じているその先は、勉強でしょうか?それとも音楽でしょうか?

4.国家試験を目指すなら、どう選ぶか

薬剤師国家試験は、感覚ではなく得点で決まります。

もし合格可能性を少しでも高めたいのであれば、学習環境は「快適」ではなく「科学的」に設計するべきです。

重要な暗記や読解、計算演習の時間は無音を基本にする。音楽を流すにしても、それが学習効率を上げるよい選択だという思い込みを持たない。歌詞付き音楽は、絶対に避ける。
それだけでも、国家試験合格に対してマイナスに働く要因を一つ排除できます。

国家試験は長期戦です。毎日の小さな差が、本番での大きな差になります。

音楽は気分を支えてくれるかもしれません。しかし合格を支えるのは、削ぎ落とされた集中力です。

本気で合格を取りに行くなら、まずは無音から始めてみてください。

音楽は「1日〇分だけ」と決めた休憩時間に、集中して聴くようにしましょう。

この記事の著者

安原智久

株式会社Medisere講師(化学・物理)
メディセレ薬局薬剤師
薬学教育研究・アクティブラーニング専門家
元薬学部教授
【学歴・学位】
京都大学薬学部薬学科卒業
博士(薬学)(京都大学)
【専門分野・研究領域】
薬学教育学:チーム基盤型学習(TBL)、問題解決型学習(PBL)
教育工学:ピア評価、アクティブラーニング手法開発
初年次教育:化学教育の層別最適化、学習成果測定
分野横断型教育:統合型薬学教育プログラム開発
有機化学:創薬科学、生物活性化合物の合成研究
【研究業績の特徴】
教育手法革新、学習成果測定、継続的改善にる60本以上の論文の豊富な研究実績

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