「後悔しない薬局人生の終わらせ方」〜騙されない事業承継の進め方〜 | メディセレメディア

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「後悔しない薬局人生の終わらせ方」〜騙されない事業承継の進め方〜

「長年守ってきたこの薬局を、そろそろ誰かに…」「でも、何から始めればいいのか分からない…」

薬局経営者の皆さま、このような悩みを抱えていませんか?

本日は、皆さまが「後悔しない選択」をするための具体的な方法と、絶対に避けるべき落とし穴についてお話しします。


なぜ今、事業承継を真剣に考えるべきなのか?

「うちの薬局はまだ大丈夫」そう思っている間にも薬局業界は静かに、しかし確実に変化しています。

  • 報酬の微減傾向: 処方箋1枚あたりの調剤報酬は、少しずつですが確実に厳しくなっています。
  • 薬剤師不足と人件費の高騰: 特に地方では薬剤師の採用が難しく、人件費が経営を圧迫しています。 「一人薬剤師体制」では、いざ売却しようとしても「リスクが高い」と判断され、買い手がつかないケースも少なくありません。
  • 国の政策転換: 国は「門前薬局」から「かかりつけ薬局」への転換を強力に推進しています。 電子処方箋への対応 、地域連携薬局などの認定取得 には、新たな設備投資や専門性の強化が不可欠です。
  • 大手資本の台頭: 人材とシステムを持つ大手チェーンが、積極的に地域の薬局を買収しています。 薬局に限ったことではありませんが、個人薬局が単独で戦うには、構造的に厳しい時代になってきているといえます。

これらの変化に対応できず、気付いた時には選択肢がなくなってしまう…。そうなる前に、今、ご自身の薬局の“現在地”を知ることが何よりも重要です。


「閉めたいけど、閉められない」経営者が抱える“しがらみ”

頭では分かっていても、心が決まらない。事業承継をためらう背景には、数字だけでは割り切れない、さまざまな“しがらみ”があります。

  • 従業員への想い: 「長年一緒に働いてくれたスタッフを路頭に迷わせるわけにはいかない…」
  • 地域との関係: 「“ありがとう”と言ってくれた患者さんたちを裏切れない。自分の代で終わらせていいのか…」
  • 経済的な問題: 「薬の在庫や設備の処理、借入金の返済はどうすればいいのか。廃業するにもお金がかかる…」
  • 精神的なプレッシャー: 「親から受け継いだ大切な薬局だから」「世間体が気になる…」

これらのお気持ちは、経営者として当然のものです。しかし、最もリスクなのは「迷っている時間」そのものです。迷っている間に薬局の価値は下がり続け、結果的に従業員も患者さんも守れなくなってしまう可能性も考慮しなければなりません。


絶対にやってはいけない!事業承継の失敗パターン4選

私が現場で目にした、あまりにも多い「失敗」のパターンです。これだけは絶対に避けてください。

  1. 書面のない口約束 「知り合いが引き継いでくれると言っているから」…この曖昧さが最も危険です。 後になって「そんな条件では聞いていない」とトラブルになるケースが後を絶ちません。 事業承継は“人生の大取引”です。必ず書面で内容を確定させましょう。
  2. 高すぎる報酬の仲介業者 「3,000万円で売れますよ」という甘い言葉を信じたら、実際には手数料が高く、結局ほとんど手元に残らなかった…。 契約書の内容を理解せずにサインをしてはいけません。必ず専門家に相談してください。
  3. 後継者との曖昧な期待感 「息子がいつか継いでくれるだろう」「娘婿が薬剤師だから…」という期待だけで、何の準備もしていないケース。 本人に確認したら「継ぐつもりはない」と言われ、計画がすべて白紙になることも珍しくありません。
  4. 「最後まで見届けたい」が命取りに 責任感から「自分が元気なうちは」と引退を先延ばしにし、体力的・精神的な限界が来てから慌てて準備を始めるケース。 その時にはすでに薬局の価値が下がりきっており、“売れる状態”ではなくなっているのです。

あなたの薬局、本当の価値はいくら?

「うちの薬局なんて、大した価値はないよ」と思っていませんか? それは大きな誤解かもしれません。

薬局の企業価値は、一般的に以下の式で算出されます。

企業価値 = EBITDA(営業利益+減価償却費) × 業界の倍率(3〜5倍が目安)

この基本価値に、以下の要素が加味されて最終的な評価額が決まります。

  • プラス評価の要因:
    • 立地が良い(駅近、駐車場あり、近隣に複数の医療機関)
    • 薬剤師が複数名おり、定着率が高い
    • 技術料の比率が高い(かかりつけ機能、在宅医療など)
    • 地域連携薬局などの認定を取得している
  • マイナス評価の要因:
    • 一人薬剤師体制
    • オーナー経営者に経営を依存している
    • スタッフの高齢化

何より大切なのは、「薬局の価値は“思い出”ではなく“数字”で決まる」という事実です。 買い手は、あくまで「事業として成立するか」を見ています。 まずはご自身の薬局の価値を客観的に把握することから始めましょう。


5年後を見据えた3つの選択肢

5年後、あなたはどんな働き方をしていたいですか? 今と同じように、週6日働き続ける未来を想像できますか?

「それは少ししんどいな…」と感じたなら、今すぐに行動を起こすことも考えるべきです。選択肢は大きく3つあります。

  1. 第三者への売却(M&A) 最も高い売却価格が期待でき、従業員の雇用も維持しやすい方法です。 大手チェーンに売却すれば、高額な買収価格や迅速な決定が期待できます。
  2. 親族への承継 経営理念や地域との関係性を維持しやすい方法です。 ただし、後継者の経営能力や、相続税・贈与税の問題をクリアにする必要があります。
  3. 廃業 最終的な選択肢ですが、在庫の処分や借入金の清算など、廃業にも多額の費用と労力がかかります。

どれが正解ということはありません。しかし、「何も選ばないまま時間だけが過ぎていく」ことが最大のリスクといえるでしょう。


まとめ:後悔しないために、今日からできること

本日の内容をまとめます。

  • 薬局業界は構造変化の真っ只中にあり、「何もしないこと」が最大のリスクです。
  • 経営者が抱える感情的な“しがらみ”が、最適な判断を遅らせる原因になります。
  • 「口約束」や「曖昧な期待」は失敗の元。冷静な準備と計画が不可欠です。
  • 薬局の価値は客観的な“数字”で決まります。まずは現状を正しく把握しましょう。
  • 最も重要なのは「動けるうちに、納得できる選択をすること」です。

以上、ご参考になれば幸いです。

この記事の著者

田原 靖弘

【行政書士】
18年間警察官として勤務し、捜査二課係長として詐欺や横領、補助金不正といった経済犯罪の捜査を専門に担当。告訴・告発事件処理では警察庁表彰の実績も持つ。
現在は、株式会社Medisere取締役と行政書士事務所代表を兼務。
その元刑事としての豊富な経験と独自の視点を活かし、以下の分野で専門的なサービスを提供している。
経営者・起業家向け:法務リスク管理、資金調達と事業成長戦略の支援
薬局・医療関係者向け:業界に精通した実践的アドバイスと行政手続き

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